「標準的な運賃」普及・浸透へ
改正貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通省は2020(令和2)年4月24日、「標準的な運賃」を大臣告示しました。「標準的な運賃」は事業者が法令遵守しながら再生産可能な事業運営ができるようにし、それにより、トラック運転者の労働時間・賃金水準を全産業並みにすることなどを目的に告示されたものです。
その告示は、新型コロナウイルス感染症の拡大により、1回目の「緊急事態宣言」が発令された最中というタイミングの悪い時期でしたが、全日本トラック協会はその普及・活用を図るため、「標準的な運賃」導入の趣旨や目的、告示と通達の内容、適用方を解説した「標準的な運賃」普及セミナーのYouTube動画や、「標準的な運賃」解説書テキストなどを作成し、その届出など普及・活用への取り組みを促しています。
2020年12月には荷主企業などに対して、全ト協と国土交通省の連名で要請文書「安定した輸送力確保に向けた取り組みのお願い」を送付し、持続可能な物流の実現に向けて「標準的な運賃」の適用に理解と協力を求めました。
≫告示後の届出率まだ1割強
「標準的な運賃」告示後、既に1年余が経過しましたが、その普及・活用はこれからの状況です。国土交通省自動車局がまとめた「標準的な運賃」の届出状況によると、一般貨物自動車運送事業者(霊柩を除く)のうち、届出を行ったのは2021(令和3)年4月末時点で7,536社と、全体の13.2%にとどまっています。都道府県別で最も届出率が高いのは大分県の65.8%です。一方、最も低いのは兵庫県の1.3%で、届出状況にはかなりの格差があります。
運輸局ブロック別では、関東が5.3%、中部が8.5%、近畿が7.3%といずれも一桁台の届出率です。都道府県別では、東京が4.1%、愛知が2.7%、大阪が3.8%と低い水準にあり、相対的に大都市圏の届出率が芳しくない状況です。
≫全ト協が普及推進運動
「標準的な運賃」告示制度は2024(令和6)年3月末までの時限措置であることから、全日本トラック協会では都道府県トラック協会および国土交通省と連携して、2021(令和3)年4月から「標準的な運賃」普及推進運動に取り組んでいます。特に2021年度を重点期間として今後3年間にわたり、普及・活用のための取り組みを展開していく方針です。
具体的には、全ト協と都道府県トラック協会による「標準的な運賃」活用セミナーの開催やホームページ上での届出資料作成ツールなどの情報提供、『今すぐわかる標準的な運賃』パンフレット・様式集の作成・配布、相談窓口の設置、荷主企業への要請文書の送付による交渉気運の醸成などを図ることにしています。一方、国交省では荷主団体・荷主企業に対する周知・啓発、都道府県トラック協会が開催する会議やセミナーへの講師派遣を行い、支援していく方針です。
急がれる働き方改革への対応
2018(平成30)年の働き方改革関連法制定により、自動車運転業務に対する時間外労働の罰則付き上限規制が2024(令和6)年4月から適用されます。適用される内容は「年960時間以内」(一般則は年720時間以内)ですが、「自動車運送事業の働き方改革実現に向けた政府行動計画」では、適用期限よりもできるだけ早い時期に全事業者・全運転者の時間外労働が年960時間以内になるよう求めています。
これに先立ち2023(令和5)年4月から、月60時間超の時間外労働に対する法定割増賃金率50%以上(現在、猶予措置により25%以上)が、中小企業に対しても適用されます。
全日本トラック協会では、トラック運送業界における働き方改革を推進し、自動車運転業務に対する時間外労働の罰則付き上限規制に対応するため、「トラック運送業界の働き方改革実現に向けたアクションプラン」を策定するなど、取り組みを進めています。
≫「改善基準告示」見直しへ調査・検討
自動車運転業務に対する時間外労働の罰則付き上限規制適用に向けて、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)を見直す必要があるため、厚生労働省の労働政策審議会労働条件分科会に「自動車運転者労働時間等専門委員会」が設置され、調査・検討が行われています。
本来なら、2020(令和2)年の状況について実態調査を行う予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響により、平常時の実態を把握することが困難であることから、コロナ前の2019(平成31・令和元)年の実績を対象に調査を行うとともに、改めて2021(令和3)年10月に実態調査を行う予定です。
その調査結果をもとに2022(令和4)年春から本格的な議論を行い、同年秋には結論を出し、同年12月に告示改正を行う方針です。その後は上限規制適用にあわせて2024(令和6)年4月に施行する予定です。このため、準備・周知期間は当初の想定より1年短い1年3か月間となり、その分、事業者は短期間で対応しなければならなくなりますが、前記の専門委員会では「告示改正を時間外労働の上限規制導入より遅らせることはできない」との意見が大勢を占めており、今のところ変更はないとの前提で対応を進める必要があります。
見直しの主な焦点は、年間の拘束時間(現行年3,516時間)を過労死等防止の観点から、どこまで減らすか、休息期間(仕事と仕事の間のインターバル)や連続運転時間(現行4時間)をどう設定するかなどです。
≫「同一労働同一賃金」施行
いわゆる「同一労働同一賃金」を求める、パートタイム・有期雇用労働法が2020(令和2)年4月から、まず大企業を対象に施行されましたが、2021(令和3)年4月から中小企業に対しても適用されました。
これにより、同じ職場で働く正社員(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(短時間労働者・有期雇用労働者)との間で、基本給、賞与、各種手当、福利厚生などにおいて不合理な待遇差を設けることが禁止されました。事業主は非正規雇用労働者から、正社員との待遇の違いやその理由などについて説明を求められた場合、それに応じなければなりません。
「同一労働同一賃金」をめぐる問題に関していくつかの裁判が行われ、待遇の違いをどこまで認めるかが焦点となりました。最高裁判所の判決では、賞与や退職金などは不合理性を認めていないものの、各種手当(無事故・作業・給食・皆勤・通勤など)や休暇は不合理とされた事案が多く、適切に対応していく必要があります。
「ホワイト物流」推進運動が進展
トラック運転者不足により、現状のままでは必要な物流機能を維持できなくなるおそれがあることから、国土交通省は関係行政と連携し、2019(平成31)年4月から「ホワイト物流」推進運動を展開しています。同運動の趣旨に賛同し、自主行動宣言を提出した企業・組合・団体は2021(令和3)年4月30日時点で1,213社・団体となり、新型コロナウイルス感染症の影響がある中でも、徐々に増えてきています。
トラック輸送の生産性向上・物流効率化を推進し、女性や60歳代の高齢運転者も働きやすい労働環境の実現などを目指す運動です。この趣旨に賛同した企業は、その実現に向けた自主行動宣言を同運動のポータルサイトに提出・表明し、取り組みを推進することになっています。
提出された自主行動宣言には平均で6項目強の記載があり、取り組み項目として多いのは「物流の改善提案と協力」「異常気象時の運行の中止・中断」「荷役作業時の安全対策」「パレットの活用」「運送契約の書面化推進」「契約の相手方を選定する際の法令遵守状況の考慮」などです。
「働きやすい職場認証制度」初の認証
国土交通省は2020(令和2)年度から、「働きやすい職場認証制度」(正式名称・運転者職場環境良好度認証制度)を創設しました。これに伴い、認証機関である日本海事協会が同年9月から年末にかけて認証申請の受付を行い、トラックなど自動車運送事業者2,558社が申請しました。同協会は2021(令和3)年5月にその審査結果を発表し、初の認証事業者2,548社を公表しました。このうちトラック運送事業者は1,718社で、全体の67.4%と3分の2を占めています。
同制度は、トラックなど自動車運送事業の運転者の労働条件や職場環境などを評価・認証する制度で、慢性的な人手不足状態にある運転者の働き方改革、とりわけ職場環境の改善に向けた事業者の取り組みを見える化し、求職者に情報提供することなどにより、運転者への就職を促す目的で創設されたものです。
評価は1つ星・2つ星・3つ星の3段階で行いますが、2020年度は試行実施期間として1つ星を対象に申請受付を行いました。1つ星は、法令遵守や労働時間・休日、心身の健康、安心・安全、多様な人材の確保・育成の5分野で基本的な要件を満たすと、認証されます。引き続き、2021年度も1つ星を対象に申請受付を行います。
認証を受けることにより、ハローワークでの求人票に記載されるほか、認証事業者と求職者とのマッチング支援を行うことも検討されており、制度の普及・浸透が期待されるところです。
輸送品目別に改善ガイドライン
国土交通省と厚生労働省は、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善協議会」での検討を踏まえ、2018(平成30)年11月に「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」を策定し、その後、特に荷待ち時間発生件数が多い加工食品、建設資材、紙・パルプ(家庭紙および洋紙・板紙)の各輸送分野について順次、ガイドラインを策定しました。
2020(令和2)年度は、これらに加えて飲料・酒物流の実証実験などを行いました。実証実験ではメーカーと卸間でASN(事前出荷情報)を活用したノー検品、賞味期限の年月日表示を年月表示に切り替える実験、メーカーと卸による車両の共同活用などを行い、効果を検証しました。
その結果、今後の取り組みとして、ノー検品では一定レベルの品質を確保するためのルールづくり、附帯作業は誰が実施するかを個別に明確化すること、車両の相互活用は帰り荷を確保するため定時運行・ルート化を通じてマッチングすること-などを進める必要があるとされ、実証実験の結果などを踏まえ、加工食品物流編のガイドラインに飲料・酒物流を含める形で改訂し、取り組みの方向性を示しました。
道路法一部改正で新特車制度導入
新たな特殊車両通行制度の導入を柱とする道路法の一部改正が2020(令和2)年5月27日に公布され、その2年以内に施行されます。新たな制度は、データ化された道路情報を国が一元的に管理し、ETC2.0が搭載されている車両を登録後、経路を検索すれば「通行可能な経路」がWeb上で即時に地図表示され、許可を受けることなく即時通行ができるようにするものです。
車両の登録手数料は1台当たり5,000円(5年間有効)で、連結車はトラクタ単位で課金されます。検索手数料は、経路検索が1往復600円(1年間有効)、マップ検索(通過都道府県の道路網)が1都道府県当たり400円(同、都道府県が増えるほど安く設定)です。
2018(平成30)年度の特車許可件数は約46万件、許可台数は約10万台、許可経路数は約1,000万経路ですが、特車許可制度の利用企業のうち、約4割が新制度を利用するものと見込んでいます。現在、国による一括審査でも許可まで8.5日、全体の約7割を占める個別審査は35.7日も要していることから、新制度の導入により大幅に短縮されることが期待されます。
政府、交通政策基本計画を策定
政府は2021(令和3)年5月、2025(令和7)年度までを計画期間とする第2次交通政策基本計画を閣議決定し、公共交通・物流分野のデジタル化や徹底した安全・安心の確保、運輸部門をおける脱炭素化などに向けた施策を推進する方針です。
物流分野に関しては、サプライチェーンの徹底した最適化などによる物流機能の確保に向けて、デジタル化や自動化・機械化の導入、標準化の推進、取引環境の改善、共同輸配送などを推進することにしています。また施策推進に当たり、目標値(KPI)を設定しており、トラック運送事業に関しては運転者に占める若年層(15~29歳)の割合を全産業並みの16.6%へ向上させることなどを掲げています。
新「総合物流施策大綱」策定
政府は2021(令和3)年6月、2025(令和7)年度までを計画期間とする新「総合物流施策大綱」を閣議決定しました。2020(令和2)年12月に国土交通省や経済産業省などが設置した「2020年代の総合物流施策大綱に関する有識者検討会」が提言をまとめており、これを踏まえて策定されたものです。
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う、社会環境の劇的な変化を「これまで進捗しなかった物流のデジタル化や、物流業界における構造改革を加速度的に促進させる好機」と捉え、推進する方針です。特に物流デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の前提となる標準化について、「これまでさまざまな商慣習のため進捗を得られない面があったが、労働力不足に端を発した物流に対する危機感が増すにつれ、推進されるべき時期に来ている」としています。
新大綱の柱は3つです。①「簡素で滑らかな物流の実現」に向けた物流デジタル化の推進、労働力不足や非接触・非対面型物流に資する自動化・機械化の取り組み推進、物流標準化の取り組み加速、高度物流人材の育成・確保、②「担い手にやさしい物流の実現」に向けた、トラック運転者の時間外労働上限規制を遵守するために必要な労働環境整備、物流生産性改善に向けた革新的な取り組み推進(共同輸配送、倉庫シェアリング、ラストワンマイル配送円滑化など)、新たな労働力確保に向けた対策(職場環境整備やオペレーションの定型化など)、③「強くてしなやかな物流の実現」に向けた、強靱で持続可能かつ国際競争力に資する物流ネットワークの構築、カーボンニュートラルの実現-などに取り組む方針です。