車体課税抜本見直しは先送り
政府は2011(平成23)年12月10日、2012(平成24)年度税制改正大綱を閣議決定しました。2012年度改正では、自動車の車体課税見直しが焦点となり、政府税制調査会では、自動車重量税と自動車取得税の廃止を求める経済産業省と、税収不足を理由に反対する財務、総務両省による激論が戦わされました。
経済産業省は、歴史的円高や東日本大震災の発生を背景とした産業の空洞化と、それに伴う国内雇用への悪影響を指摘し「日本企業は戦後最大の危機に直面している」として、取得税と重量税の廃止を求めましたが、財務省は「復興財源のために増税をお願いする中で、1兆円もの減税を持ち出すのは疑問に思わざるを得ない」と難色を示し、総務省も「とても認めるわけにはいかない」と反発しました。
最終的に、自動車重量税については、2015(平成27)年燃費基準等達成車には本則税率を適用するなど、1,500億円規模の負担軽減を実施するとともに、エコカー減税(自動車重量税、自動車取得税)についても、新たな燃費基準に基づき区分を再編したうえで、3年間延長することが決まりました。
自動車重量税は、燃費基準達成の営業用トラックについて、車両総重量1トンごとに2,700円とされている税率が2,500円へと200円軽減されます。基準達成車以外の自動車については、13年超の自動車を除いて、同じく2,600円へと100円引き下げられます。エコカー減税では、新たに衝突被害軽減ブレーキを搭載した大型トラックについて、特例措置(自動車重量税50%軽減、自動車取得税について取得価額から350万円控除)が創設されることになりました。
このほか、2011年度税制改正では実現しなかった、地球温暖化対策税の創設が再び盛り込まれました。前年度と同じ内容で、石油石炭税に課税特例を設け、2012年10月から軽油・ガソリン1リットル当たり初年度25銭が課税され、3年半かけて同76銭に税率を引き上げる予定です。
軽油引取税の国税化も
2012(平成24)年度税制改正で、自動車重量税と自動車取得税の廃止は見送られましたが、今後燃料課税も含めた抜本見直しが行われる可能性があります。揮発油税、軽油引取税といった燃料課税の当分の間税率は、現状のまま維持されましたが、政府税制調査会での議論のなかで財務省は「エネルギー課税は国、車体課税は地方という抜本的な見直しが必要だ」と、国税である自動車重量税を地方税とし、地方税である軽油引取税を国税とする考えを示しています。同省はさらに「車体課税を軽減する場合には、国際的に低い水準となっているエネルギー課税の強化などにより安定的な財源を確保する必要がある」とガソリン、軽油など燃料税増税も示唆しています。
また、自動車取得税については、消費税との二重課税との批判があるため、消費税引き上げ時にその扱いが焦点となりそうです。
高速料金休日1,000円廃止、無料化実験も凍結
国土交通省は2011(平成23)年2月16日、同年4月からの新たな高速道路料金割引を発表しました。NEXCO系および本四高速については、中型車以上のトラックに上限性は適用せず、大口・多頻度割引、通勤・深夜割引など現行割引を3年間継続する一方、首都高速・阪神高速については、2012(平成24)年1月を目途に、料金圏のない距離別料金制に移行することが決まりました。
普通車については土日祝日の上限1,000円を継続するほか、新たに平日にも上限2,000円とする割引を新設する予定でしたが、3月の東日本大震災発生に伴い、被災地の復旧・復興財源確保のために見直しを余儀なくされ、4月22日に閣議決定した2011年度第1次補正予算で、休日1,000円、平日2,000円の上限料金制を廃止して計2,500億円を捻出したほか、高速道路の無料化社会実験も一時凍結し1,000億円を歳入に繰り入れました。
無料化社会実験は2011年6月19日で一時凍結され、普通車の休日上限1,000円も同日で廃止されました。中型車以上のトラックについては、2月に決まった割引制度が存続され、2012年度以降見直すとされていたマイレージ割引についても、普通車の平日上限2,000円の導入中止に伴い、3年間の継続が決まりました。
東北地方の高速道路を無料開放
高速道路無料化社会実験の凍結と普通車上限1,000円の廃止に伴い、2011(平成23)年6月20日からは東北地方を発着する被災者や被災地復興のためのトラックに対する無料開放が開始されました。
震災被災者と原発事故による避難者が移動しやすいようにするほか、復旧・復興のための物資輸送を円滑にすることが目的です。被災者・避難者に対する無料開放は1年間の予定で、トラックの無料開放は同年8月末まで行われました。発地、着地のいずれかが磐越道以北の東北地方であることが条件で、ETC通行には適用されず、有人料金所で料金収受員が通行券を確認するかたちで適用されました。
無料開放の対象は、NEXCO系が東北道青森~白河間など計11路線17区間1,430kmで、地方道路公社が9路線9区間111km、合計20路線26区間の1,541kmです。東北エリア内を乗り降りすれば、東北エリア外の利用分についても無料となるため、常磐道水戸インターチェンジなどでUターンする「目的外利用」が横行して社会問題化しました。
全日本トラック協会ではこうした目的外利用を行わないよう全国の事業者に呼びかけたほか、水戸インターに職員を派遣して監視活動を行い、Uターンが確認できた車両に対しては是正指導も行いました。
政府は同年10月21日に閣議決定した2011年度第3次補正予算案に、東北地方の高速道路を2011年12月から2012(平成24)年3月まで無料開放するための費用250億円を盛り込みました。東北地方のエリア内走行分だけを無料にする措置で、東北道以東の被災3県は全日・全車種を対象にETC・現金利用ともに無料とし、日本海側3県の路線は、観光振興のため土日祝日のETC利用普通車以下を無料としました。
首都高速、阪神高速は距離別料金制に移行
首都高速道路と阪神高速道路の料金が2012(平成24)年1月1日から、料金圏ごとの均一料金制から料金圏のない距離別料金制に移行しました。
首都高速では、利用距離が最初の6kmまでは普通車で500円、以後6kmごとに100円ずつ加算され、24km超で上限の900円となります。大型車の場合は普通車の倍で、6kmまでが1,000円で、以後6kmごとに200円が加算され、24km超で1,800円となります。大型車の場合、初乗りであれば現行料金(1,400円)より400円安くなりますが、上限では400円の値上げとなります。ただ、東京、埼玉、神奈川の料金圏も撤廃されるため、複数の料金圏をまたぐ利用は値下げになります。値上げとなるケースが多いと見込まれるトラックに配慮して、大口・多頻度割引が拡充され、車両単位割引が現行の最大12%から20%に、契約者単位割引が現行の最大5%から10%に引き上げられました。ただ、ETCクレジットカードによる少額利用者向けの「お得意様割引」や夜間割引は廃止されました。
会員事業者の1走行平均距離が24kmという東京都トラック協会では、多くの事業者が値上げになるため、「お得意様割引」や夜間割引などETCクレジットカード利用者への割引継続を強く要望しています。
阪神高速道路についても2012年1月1日から、首都高速とほぼ同様に、8号京都線を除いて料金圏を撤廃したうえで、走行距離に応じた料金制度に移行しました。
現行料金割引の再整理も~有識者委が中間報告
国土交通省に設置された高速道路のあり方検討有識者委員会(委員長=寺島実郎日本総合研究所理事長)は2011(平成23)年12月9日、今後のネットワーク整備と料金制度のあり方についての中間報告をまとめました。
当面の料金割引について中間報告は、通勤割引や深夜割引、休日昼間5割引、平日昼間3割引など現行割引の効果を検証し、割引目的を明確にしたうえで整理する必要があると指摘。3年後には現在の割引財源(利便増進事業)がなくなるため、仮に継続するとしても様々な工夫が必要で、状況によっては既存割引の再整理も検討すべきだと指摘しました。
また、これまでの「償還後は無料開放」との方針は踏襲せず、維持管理費用について継続的に利用者負担を求める方向を打ち出しました。
ネットワーク整備については、世界の大都市に比べ劣後している大都市の高速道路整備と、ブロック中心都市の高速道路整備、東日本大震災を踏まえたミッシングリンク(不連続区間)解消??を最優先で整備する方針を示しました。費用負担については、地方部は税負担による無料整備、東京外環などの大都市部は有料整備を基本としました。
事業者数3年ぶりに増加
国土交通省が2011(平成23)年12月16日にまとめた同年3月末現在のトラック運送事業者数は、前年度より276社、0.4%増えて6万2,988社となり、3年ぶりに増加に転じました。新規参入事業者が13.5%増と3年ぶりに増えて1,610社となった一方で、撤退事業者が16.5%減の1,334社となったためで、2011年度はリーマンショック後の景気回復期にあったためと見られています。
車両数規模別に見ると、10台以下が605社増えて3万5,766社となり、全事業者数に占めるシェアは、前年度の56.1%から56.8%へと上昇しました。小規模化が一層進展した格好です。
逆に、保有車両が501台以上の規模が大きい事業者数も、58社から87社へと29社増えており、二極化が進んでいます。
都道府県別に事業者数の増減を見ると、東京が21社減の5,795社、愛知が5社減の2,936社となりましたが、大阪は184社増えて4,712社となりました。
将来ビジョン検討会ワーキングが大詰め
国土交通省のトラック産業将来ビジョン検討会に設置された、最低車両台数・適正運賃収受ワーキンググループ(座長=野尻俊明流通経済大学教授)における議論が大詰めを迎えています。2011(平成23)年12月27日に開かれた第5回会合では、これまでの議論の論点整理が行われましたが、(1)最低車両台数のあり方(2)市場構造の健全化策(3)運賃料金の適正収受方策-の3つの論点いずれについても賛否両論の意見が出され、議論の収束には至っていません。
論点のうち、最低車両台数については委員から「安全確保の法令を遵守できていない小規模事業者も多い状況において、安全・環境に要するコストを賄い、コンプライアンスと健全経営を確保するためには、最低車両台数の引き上げが必要」とする意見が出される一方、「最低車両台数をどこに設定するかは、WGでの実態調査結果等でも明らかではなく、事業の機動性の確保という点も踏まえると、現状では引き上げは適当ではない」と逆の意見も出されています。
市場構造の健全化策では、事業許可の更新制導入が新たな論点として取り上げられましたが、WGでは「更新制の導入により不適正事業者を排除するべきではないか。不適正事業者が排除できれば、市場原理が適切に働き、運賃の問題も解決に向かう」と導入に積極的な意見と、「更新制の導入は、適正事業者にも更新手続きに係る書類作成等の負担増となり避けるべき。また、その他の問題も考えられるので、慎重に検討すべき」とする消極的意見も出されています。
さらに、適正運賃収受方策についても、標準運賃の発動や認可運賃制度の復活など、運賃規制の強化を求める声がある一方で、認可運賃制の下でも運賃が守られていなかったことや、現在は運賃の多様化が進んでいることなどから、規制強化に懐疑的な指摘もされています。
全日本トラック協会では、これらの論点について各都道府県トラック協会に対し、改めて委員会などで議論したうえで意見を集約・提出するよう求め、これら各地方協会の意見を踏まえ、2012(平成24)年3月30日に開催した物流政策委員会で今後の対応について審議しました。
社会保険等未加入の行政処分が大幅減
国土交通省は2011(平成23)年6月21日、2010(平成22)年度の社会保険等未加入事業者に対する行政処分状況をまとめました。それによると、処分事業者数は前年度比26.0%減の271社、処分件数は同じく26.5%減の344件となり、大幅に減少しました。
社会保険等未加入事業者は、不当に運送原価を引き下げることで不健全な競争を起こすとして2008(平成20)年7月から行政処分の対象とされ、2009(平成21)年10月からは処分基準が強化されました。このため、2010年度の処分では、警告が前年度の338件から73件へと減少し、車両停止が130件から271件へと倍増しています。
保険別に処分件数を見ると、社会保険(健康保険、厚生年金保険)未加入が2009年度の317件から2010年度は230件へと27.4%減少し、労働保険(労災保険、雇用保険)未加入に対する処分は、同じく151件から114件へと24.5%減少しました。適正化事業実施機関が巡回指導の際に把握した未加入率は、社会保険が前年度の25.2%から21.6%に、労働保険が12.0%から10.7%へと改善しており、行政処分強化の効果が表れたかたちとなっています。