時間外労働、罰則付きの上限規制
政府は2017(平成29)年3月28日、首相官邸で「働き方改革実現会議」を開き、時間外労働に罰則付きの上限規制を設けることなどを盛り込んだ「働き方改革実行計画」を決めました。
長時間労働の是正のためには、いわゆる「36協定」でも超えることができない、罰則付きの時間外労働の限度を具体的に定める法改正が不可欠として、時間外労働の限度を原則として月45時間かつ年360時間、繁忙期などの特例として年720時間(月平均60時間)としました。
自動車運転、5年間猶予し年960時間に
現行制度では、自動車運転業務などは時間外労働規制の適用除外業種となっていますが、これを見直し、上限規制を適用することになりました。自動車運転業務については「他業種と比べて長時間労働が認められる」として、罰則付きの上限規制の適用除外とせず、一般則の施行期日の5年後に年960時間(月平均80時間)以内の規制を適用し、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設けることになりました。
施行に向けて、荷主を含めた関係者で構成する協議会で労働時間の短縮策を検討するなど、長時間労働を是正するための環境整備を強力に推進することとされました。
このための取り組みとして、自動車運送事業に関しては関係省庁による横断的な検討の場を設け、IT 活用による生産性の向上、多様な人材の確保・育成など、長時間労働を是正するための環境整備に向けた関連制度の見直しや支援措置を行うこととし、行動計画を策定・実施することになりました。
特にトラック運送業については、事業者・荷主・関係団体などによる実証事業を踏まえ、ガイドラインを策定するとともに、関係省庁と連携して、①下請取引の改善等取引条件を適正化する措置、②複数のドライバーが輸送行程を分担することで短時間勤務を可能にする等生産性向上に向けた措置、③荷待ち時間の削減等に対する荷主の協力を確保するために必要な措置、支援策を実施する―とされました。
トラック運送業における長時間労働問題は、中小企業に対する月60時間を超える時間外労働の法定割増賃金率の適用を契機に、改善に向けた取り組みが進められてきましたが、罰則付きの上限規制という、新たな段階を迎えることになりました。
取引環境・労働時間改善協議会~全国でパイロット事業を実施
国土交通・厚生労働両省は2017(平成29)年2月1日、第5回「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」および第4回「トラック運送業の生産性向上協議会」合同会議を開き、47都道府県に設置された地方協議会でのパイロット事業(実証実験)の実施状況を報告しました。
パイロット事業を輸送品目別にみると、食料品11件、農産物7件、紙・パルプ4件、建設資材3件、機械製品3件、飲料2件、鮮魚2件、繊維製品2件、工業製品2件、その他11件で、様々な輸送品目で実験が行われました。全地域で発荷主の協力が得られましたが、着荷主の協力は28件にとどまりました。
国交省の運賃・料金検討会~運賃以外の料金を明確化へ
国土交通省は2017(平成29)年4月26日、第4回「トラック運送業の適正運賃・料金検討会」を開き、運送以外のコストを適切に収受するための方策を示しました。取引環境・労働時間改善協議会のワーキンググループとして同検討会を設置し、検討を進めていたものです。
運送の対価である「運賃」とは別に、これまで不明確だった「料金」部分について、「積込み料」「取卸し料」「待機時間料」「附帯業務料」などと明確化し、運送状に記載することなどを定めた標準貨物自動車運送約款の改正案を提示したものです。「附帯業務」の例示も実態に合わせて整理し、「横持ち及び縦持ち」「棚入れ」を新たに加えました。
同省ではパブリックコメントを経て、7月に標準約款の改正を公布、10月頃に施行する予定です。
書面化推進ガイドラインも同様に改正し、諸料金の定義を明確化し、例えば「待機時間料」は「○時間当たり○円」と記載するようにする方針です。
同省では2016(平成28)年末から2017年1月にかけて、トラック運賃・料金収受に関するアンケート調査を実施しました。その結果、標準運賃や下限運賃の設定について、7~8割の事業者が適正収受の上で「効果あり」と回答しました。ただ、これらの方策には一方で「下限価格が基準運賃となってしまい、運賃を下げられる可能性がある」などと懸念も示されたことから、引き続き課題を整理していくことになっています。
下請中小企業の取引改善へ関係府省連絡会議
政府は2015(平成27)年12月、中小企業・小規模事業者が賃金引き上げを行いやすい環境整備に向けて、必要なコストの価格転嫁や取引先の企業収益の中小企業への還元など取引条件の改善を図るため、「下請等中小企業の取引条件改善に関する関係府省等連絡会議」を設置しました。同会議は首相官邸で開催される政府全体の会議で、国土交通省関係では建設・トラック運送・貸切バス事業が対象となっています。
2016(平成28)年8月の会合では、座長の野上浩太郎内閣官房副長官がトラック運送業について、事例集やハンドブックの作成とその周知を図ること、運賃水準の適正性が不十分な場合には荷主所管各府省と連携しながら責任を持って対応し、荷主などに対し注意や警告を行う制度の実効性ある運用を検討するよう指示しました。野上副長官はさらに同年10月の会合で、トラック運送業においても自主行動計画の策定など対策の充実を図るよう指示しました。
全ト協に自主行動計画を要請
国土交通省の根本幸典大臣政務官は2016年11月22日、野上浩太郎内閣官房副長官からの指示を踏まえ、全日本トラック協会の物流ネットワーク委員会の幹部らに対し、2016年度内を目途に「トラック運送業の適正取引推進のための自主行動計画」を策定するよう要請しました。
根本政務官は、元請け・下請け間などトラック運送業の取引条件改善は喫緊の課題であり、業界の下請多層構造にも課題があるとの認識を示し、大手運送事業者が率先して取り組みを進めることが重要だと強調し、計画策定を求めました。
トラック運送業における取引条件の改善に向けては、荷主の理解と協力が必要不可欠であるため、同政務官は2016年12月1日に農林水産省、12月6日には経済産業省に協力要請を行い、荷主企業に対する働きかけを要請しました。
具体的には、「一律○%減の原価低減要請や燃料価格の変動分が考慮されない価格決定の禁止」「仕分け・検品等の附帯作業や荷待ち等、運送以外の業務にかかる費用を契約上明確化」「運行管理者の選任、最低保有台数の維持、社会保険加入等の法令を遵守しない事業者との取引停止」、さらに「着荷主側における荷待ち時間の解消に向けた取り組みへの理解と協力」などを求めました。
全ト協、2次下請までに制限へ
全日本トラック協会は2017(平成29)年3月9日の理事会で、「トラック運送業における適正取引推進、生産性向上及び長時間労働抑制に向けた自主行動計画」を承認しました。国土交通省の根本幸典大臣政務官からの要請を受け、物流ネットワーク委員会で検討していたもので、①附帯作業・荷待ち・高速道路料金等の負担に関するルールを明確化し、下請事業者との取引について、原則100%書面化する、②全ての取引について原則2次下請までに制限するほか、改善基準告示違反の可能性のある運送は、下請事業者への依頼を禁止する、③発着荷主や下請運送事業者と連携し、附帯作業や荷待ち時間等の業務改善を進める―などの41項目に具体的に取り組むとしています。
同委員会に所属する大手19社が、これらの内容を盛り込んだ各社独自の自主行動計画を6月末までに作成し、実施することになっています。
国交省が価格交渉ハンドブック
国土交通省は2017(平成29)年2月、「トラック運送事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」を作成しました。トラック運送取引では、荷主の立場が強く、価格交渉が困難なケースが多いため、実際の取引で独占禁止法上、問題となる行為を記載して注意を促すとともに、運送業務と附帯業務の区分を明確にすることなど、価格交渉を成功させるためのポイントを記しています。
具体的には、業務内容や責任の範囲など取引条件を明確にすること、原価計算を行い価格根拠を上手に伝えること、取り決めたルールや交渉経緯を書面に残すことなどを推奨しています。
国交省では同年2月から3月にかけて、取引改善および生産性向上に向けたセミナーを全国9ブロックで開催し、このハンドブックなどを用いて取引上、問題となる行為や望ましい取引のあり方、共同輸配送など生産性向上方策を紹介しました。
荷主勧告制度の運用改善
国土交通省は2017(平成29)年4月1日、貨物自動車運送事業法に規定する荷主勧告制度を発動しやすくするための通達改正を行い、施行しました。早期の段階で、荷主へ改善に向けた協力を要請する「協力依頼書」を新たに発出することにしたものです。
荷主勧告制度は、法令違反のトラック事業者に対して行政処分が行われることが前提となっており、発動までに時間を要し対象となる事案が限られるなど、必ずしも制度が十分に機能していないとの指摘がありました。このため、関係機関からトラック事業者の法令違反情報があった場合、行政処分の有無にかかわらず、事業者が違反を行っていた際の積載貨物の荷主を形式的に特定し、早期の段階で荷主に注意喚起し、改善に向けた協力依頼をできるようにしたものです。
荷待ち時間の記録、義務付けへ
国土交通省は2017年3月29日、トラック運転者の長時間労働の要因の1つとなっている荷待ち時間を削減するため、乗務記録において、荷主都合による荷待ちの日時を記録することを義務付ける省令改正案を発表しました。荷待ち時間を生じさせている荷主に対し、勧告などの発動に際して確認の一助とすることが目的です。改正省令は同年7月に施行します。
新たに記録することを義務付けるのは、①集荷及び配送を行った地点(「集荷地点等」という)、②集荷地点等への到着日時及び出発日時、③集荷地点等における荷積み及び荷卸しの開始及び終了日時―など。対象となるのは、車両総重量7.5トン以上または最大積載量4.5トン以上の車両です。
このほか、適正な取引確保の努力義務として、荷主都合による荷待ち時間に起因する運転者の過労運転、または過積載による運送の防止についても新たに追加します。
下請法の運用基準を強化
公正取引委員会は2016(平成28)年12月14日、「下請代金支払遅延等防止法」に関する運用基準を改正し、実施しました。違反行為事例の充実などを内容とした改正で、それまでの66事例から141事例へ大幅に増やしました。繰り返し見受けられた違反行為や事業者が問題ないと誤認しやすい行為などについて、大企業に対するヒアリング結果などを踏まえて追加したものです。
また、違反行為の未然防止の観点から、特に留意を要する違反行為類型も追加しました。具体的には、「引き下げ後の新単価を発注済の取引に遡及適用する場合の『減額』」「燃料費高騰や労務費上昇分等を一方的に据え置く場合の『買いたたき』」などです。
国交省、物流生産性革命を推進
国土交通省は2016(平成28)年3月7日、石井啓一大臣を本部長とする生産性革命本部を設置し、初会合を開きました。労働者の減少を上回る生産性の向上を実現させることで、経済成長を目指す取り組みです。物流関係の具体的なプロジェクトとしては、「オールジャパンで取り組む『物流生産性革命』の推進」と「トラック輸送の生産性向上に資する道路施策」が打ち出されました。
このうち物流生産性革命については、将来的にその労働生産性を全産業並みに引き上げることを目指すこととし、2020(平成32)年までに2割程度引き上げることを数値目標として掲げました。
実現に向けた施策としては、荷主と協調したトラック業務改革や自動隊列走行の早期実現など「成長加速物流」と、受け取りやすい宅配便など「暮らし向上物流」の2つに分けて推進します。具体的には、成長加速物流では手待ち時間の短縮や書面化を促進するほか、共同輸配送を促進し、トラック積載率を41%から2020年度に50%へと引き上げることを目指しています。
トラック隊列走行など実証実験
自動運転技術を活用したトラック隊列走行は、2018(平成30)年1月から後続車両有人で実証実験を行い、2019(平成31)年1月からは後続車両無人の実証実験を実施する計画です。これにより、2020年度には新東名高速道路での後続無人隊列走行を実現し、2022(平成34)年度以降に東京~大阪間での事業化を目指しています。
「ダブル連結トラック」は、運転者1人で大型トラック2台分の輸送を可能にするもので、2016年11月から、新東名などで実証実験が開始されました。深刻化する運転者不足を背景に、トラック輸送の省人化を進めるプロジェクトで、国土交通省ではトレーラの全長を現行の21メートルから25メートルに緩和する方針です。
中継輸送の実証実験も
国交省は2017(平成29)年1月下旬から2月中旬にかけて、中継輸送の実証実験を実施しました。実験は、関東・関西などの中小運送事業者5組9社が参加して行われ、参加事業者は今後も中継輸送に取り組む意向を示しました。
中継方式としては、運転者交替方式、トレーラ方式、脱着ボディ方式、積み替え方式など、様々な方式について実験を実施しました。その結果、課題としては収支やエリア戦略などの経営戦略との関係、与信関係の構築などが挙げられました。また実験に参加した運転者からは、「他社の車両を運転することにストレスを感じている」などの問題が指摘される一方、「拘束時間が短く、疲労が少ない」「発着地が近ければ家に帰れて魅力的」など好意的な意見も聞かれました。
改正物効法が施行
改正物流総合効率化法が2016(平成28)年10月1日から、施行されました。物流業界の労働力不足に対応して、従来の施設整備を支援する枠組みから、事業者間の連携を支援する枠組みに転換し、物流の生産性を向上させることが狙いです。鉄道や海運へのモーダルシフト、地域内配送の共同化、輸送網の集約といった事業について、荷主と物流事業者、物流事業者同士などが連携して取り組む場合、税制上の特例措置や計画策定経費の補助などにより、取り組みを支援します。
具体的には、物流施設の整備を伴う輸送網の集約のほか、トラック輸送の共同輸配送、トラック輸送から鉄道輸送へのモーダルシフト、旅客鉄道を利用した貨客混載など、トラック運転者の運転時間・待機時間の削減などの省力化とともに、二酸化炭素排出量の削減につながる取り組みを推進します。なお、2017(平成29)年3月末現在では計19件が総合効率化計画として認定されています。
準中型免許が創設
2017(平成29)年3月12日、改正道路交通法が施行され、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満の自動車を運転範囲とする「準中型自動車免許」が新設されました。普通免許を経ずに年齢18歳で取得可能で、トラック運転の基礎的免許として設けられたものです。取得時の技能教習は、普通免許より8時限多くなります。これまでの普通免許は自動的に「5トン限定準中型免許」に移行し、4時限の教習と審査に合格すれば、限定解除が可能です。
2007(平成19)年に中型免許制度が導入された際に、普通免許で運転できるトラックは車両総重量5トン未満と定められましたが、保冷設備やパワーゲートなどを装備した車両が増え、積載量2トンクラスのトラックでも車両総重量が5トンを超えるものが多くなりました。これにより、普通免許では運転できないトラックが多くなり、高校新卒者などの若年運転者採用の上で、制約要因になっていました。
このため警察庁では、2013(平成25)年9月に有識者検討会を設置し、全国高等学校長協会や全日本トラック協会などからのヒアリングを踏まえ、運転経験年数を問わず、車両総重量3.5トン以上7.5トン未満の小型トラックを運転可能とする新たな免許区分を設けることにしました。これに伴い2015(平成27)年6月、準中型自動車免許の新設などを内容とする道路交通法の改正が行われました。
準中型免許の新設により、トラック運送業界への若年者の就業間口が大きく広がり、高校新卒者をはじめ、若年運転者の採用促進が図れるものと期待されています。