トラック輸送の長時間労働改善へ協議会
国土交通・厚生労働両省は2015(平成27)年5月20日、「トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会」を設置し、初会合を開きました。労働基準法の改正により、中小企業についても、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率の引き上げ(現行25%→50%)が予定されることから、特に労働時間が長いトラック運送業の労働時間の短縮に取り組むことになったものです。
協議会は学識経験者、荷主団体・荷主企業、トラック運送事業者、労働組合の各代表と関係行政機関で構成し、2015年度から4年間をかけて長時間労働を改善するロードマップを決めました。
トラック運送業では、荷主都合による手待ち時間など事業者の努力だけで改善することが困難なため、国が音頭を取って荷主を含めた協議会を設置したものです。協議会は中央および全都道府県に設置され、実態調査を行うほか、パイロット事業を行い検証するとともに、長時間労働改善ガイドラインを策定し、普及・定着させていくことにしています。
なお、政府は2015年6月18日、首相官邸で安倍晋三首相の出席のもと、第1回「サービス業の生産性向上協議会」を開催しました。小売業やトラック運送業など5分野で生産性向上を図る枠組みとして開催されたものですが、トラック運送業の生産性向上協議会と取引環境・労働時間改善協議会は目的や趣旨が同じため、同年11月2日に開催された第2回協議会から、合同で開催されることになりました。
手待ち時間平均1時間45分
国土交通・厚生労働両省は2016(平成28)年2月19日、第3回トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会を開き、2015年9月に運転者5,029人を対象に実施した労働実態調査結果を報告しました。
それによると、手待ち時間がある運行は全体の46%で、その平均は1時間45分でした。一方、1運行の拘束時間が「改善基準告示」で定める16時間を超える運行の割合は13%で、車種別では大型、走行距離帯別では長距離、品類別では農水産品が高い状況でした。連続運転時間が、改善基準告示で定める4時間を超える運行も、全体の11%ありました。荷役については、書面化している場合はその71%が料金を収受できているのに対し、事前連絡がなく現場で荷役を依頼された場合は81%が料金を収受できていませんでした。
運賃問題もクローズアップ
第3回トラック輸送における取引環境・労働時間改善中央協議会、およびトラック運送業の生産性向上協議会合同会議が2016年2月19日開催され、長時間労働の改善問題と並んで、適正運賃収受を同協議会の主要議題とすることを確認しました。
そもそも協議会は、中小企業の長時間労働抑制策として、時間外労働に対する割増賃金率が引き上げられることに伴い設置されたものですが、こうした労働条件の改善にはそのための原資を確保する必要があり、適正な運賃収受が不可欠となることから、運賃問題についても議論していくことにしたものです。
第3回協議会では、業界委員の全日本トラック協会・坂本克已副会長が、運賃問題を議論するためのワーキンググループ設置を提案し、国が目安となる運賃水準を示すべきだと提起しました。また、同年3月15日に開かれた東京都地方協議会でも、業界委員の東京都トラック協会・天野智義副会長(当時)が「認可運賃のような拘束力のある運賃制度を作るべきだ」と述べ、また千原武美副会長(当時)も「タクシーやバスは認可運賃で、なぜトラックだけが認可運賃でないのか」と運賃規制の強化を求めました。
国交・厚労両省が運転者の確保・育成策
国土交通・厚生労働両省は2015(平成27)年5月28日、「トラックドライバーの人材確保・育成に関する連絡会議」を開催し、人材確保・育成に向けた対応策をまとめました。
具体的には、魅力ある職場づくりに向けて、①取引環境・長時間労働・賃金などの労働条件の改善、②雇用管理の知識習得・実践の推進、③雇用管理に資する助成制度の活用促進、④現場の安全管理の徹底-を挙げ、人材確保・育成に向けては、①トラック運送業への入職促進、②女性の活躍促進、③関係団体などとの連携による人材育成・定着支援の推進、④事業主などによる人材育成の推進-を挙げました。
あわせて、人材確保・育成に活用できる厚労省の各種助成金を紹介したパンフレットを作成し、全国のハローワークに配布しました。
準中型免許が創設へ~改正道交法が成立
準中型自動車免許の創設などを内容とする改正道路交通法が2015(平成27)年6月11日、衆議院本会議で全会一致で可決・成立しました。免許範囲は車両総重量3.5トン以上7.5トン未満の自動車で、年齢18歳で取得することが可能です。
集配車などの主力となる2トン積みクラスは、その多くが総重量5トンを超えるため、このクラスのトラックを運転するには、取得資格が20歳以上の中型免許が必要となります。このため高校新卒者が運転業務に就けないなどとして、全国高等学校長協会や全日本トラック協会が免許制度の見直しを要望していたものです。
警察庁は2016(平成28)年5月13日から、改正道路交通法の施行に向けて政令・内閣府令の改正案をまとめ、意見募集を行いました。施行日は2017(平成29)年3月12日とし、準中型自動車の大きさは、最大積載量2.0トン以上4.5トン未満と初めて積載量の規模を示しました。また普通免許と同様に、初めて自動車運転免許を取得する「基礎的免許」とし、18歳以上で取得できることにしました。
普通免許の取得には、技能教習34時限(最短15日間)、学科教習26時限が必要ですが、準中型免許は技能教習41時限(最短17日間)、学科教習27時限が必要な時限数とされました。新制度施行の2017年3月12日までに取得した普通免許は「5トン限定準中型免許」とみなされ、4時限の技能教習と審査を受ければ、限定解除できることになりました。なお、準中型免許の教習は、普通免許の教習と同じコースで実施されます。
初任運転者教育を強化
国土交通省は2016年4月1日、準中型免許の創設に向けて、「貨物自動車運送事業者が事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」(告示)を改正・公布し、トラックの初任運転者などに対して、安全運転の実技指導を義務化するなど運転者教育を強化しました。
年齢18歳で取得可能な準中型免許が創設されることに伴い、同省の「自動車運送事業に係る交通事故対策検討会」が免許取得後の研修の充実などを検討していたもので、この検討会報告書を踏まえて改正したものです。
現行では、初任運転者に対する特別な指導は座学のみ6時間以上ですが、座学と実車を用いた指導を15時間以上行うよう求めるほか、実際にトラックを運転させて行う安全運転指導を20時間以上実施することを義務付けました。座学のうち、積載方法、日常点検およびトラックの構造上の特性に関しては、実車を用いて指導するよう求めています。
一般的な指導・監督指針についても、交通事故統計を活用して事故の影響の大きさを理解させることや、日常点検や適正な運転姿勢での運転の重要性について、それを怠ったことにより事故を起こした場合に、事業者や運転者が受ける罰則・処分を理解させることなどを新たに盛り込みました。
全ト協、新卒採用へインターンシップ
全日本トラック協会は2016(平成28)年度の新規事業として、準中型免許の創設に伴い、高校新卒者などの採用促進に向けたインターンシップの実施を含め、総合的な対策を策定し実施していく方針です。高等学校に対して、業界の理解促進と免許制度の変更内容などの情報を提供するとともに、全ト協ホームページ上にインターンシップ募集サイトを開設するなど、運転者不足の解消に向けた諸施策を実施しています。
全ト協のインターンシップ専用サイトでは、受け入れ事業者が情報登録を行えるほか、登録事業者を公開し、インターンシップに参加したい学生や教育機関が、地域別に受け入れ事業者を閲覧できるようになっています。これにより早い時期から学生を物流現場に受け入れ、トラック業界への理解を深めてもらい、イメージアップを図ることにより、人材確保につなげることが狙いです。
社整審と交政審、物流生産性革命へ答申
社会資本整備審議会と交通政策審議会は2015(平成27)年12月25日、今後の物流政策の基本的方向性についての答申をまとめました。労働力不足などの危機を克服するため、モーダルシフトの推進や、トラック輸送のさらなる効率化など潜在的輸送力を発揮して、物流生産性革命を実現することを提言しています。物流業の人材確保に向けては、就業環境の改善や業界イメージの改善などを求めています。
個別施策としては、モーダルシフトの推進に向けて、異業種の荷主が協力した臨時列車の運行やフェリーによるトラック無人航送を挙げたほか、トラック輸送の効率化では、ETC2.0を活用した特殊車両通行許可の簡素化や運行管理支援サービス、さらに過積載の取り締まり強化など、道路を賢く使って生産性を向上させていく方針を示しました。
物流拠点については手待ち時間を削減するため、輸送機能と連携した倉庫の整備やトラック予約受付システムの導入などを推進し、先進技術の活用としては、トラックの自動隊列走行の早期実現などに取り組む方針です。
IT活用し、賢く物流管理
国土交通省は2015(平成27)年11月5日、社会資
本整備審議会道路分科会基本政策部会第11回物流小委員会・交通政策審議会交通体系分科会物流部会第7回物流体系小委員会の合同会議で、ITを活用した「賢い物流管理」を提示しました。
これに基づき、ETC2.0車載器を活用した物流効率化策では、特殊車両通行許可を簡素化(特車ゴールド制度)するとともに、トラック運行管理支援サービスを導入する方針です。一方で、WIM(Weigh-in-motion、自動重量計測装置)を増設するなど過積載の取り締まりを強化し、2020(平成32)年度を目途に過積載を半減させる目標も打ち出しました。
特車許可申請では従来、経路ごとに大量の申請が必要でしたが、複数の経路を1つにまとめて申請できるように簡素化し、輸送経路を自由に選択できるようにしました。通行許可の更新手続きも、過積載などの違反がなければ、ワンクリックで自動更新できるようにしました。なお、特車ゴールド制度は2016(平成28)年1月25日から実施されました。
ETC2.0運行管理の社会実験
ETC2.0によるトラック運行管理サービス支援は、GPS機能でリアルタイムな位置情報を提供し、正確な到着時間予測を可能にすることで荷待ち時間の短縮が図れるほか、急ブレーキや急ハンドル情報などのデータを収集し、運転者の安全確保に役立てることができます。2016年2月下旬から、計12社が参加して社会実験が行われています。
過積載違反については現在、全国の直轄国道40か所でWIMによる重量の自動計測を行っていますが、計測精度を向上させたWIMを2015年度から順次増設を進めています。また、違反事業者に警告・是正指導を行うための、「イエローカード」と呼ばれる文書の発出基準を2016年度から強化しました。さらに、違反に荷主が関与している場合、最終的に荷主勧告を出せる仕組みとしたほか、現場での取り締まりの際、違反者に荷主名を聴取し、荷主も関与した特車許可申請の仕組みも検討する方針です。
トラック隊列走行、2020年以降に実現へ
経済産業・国土交通両省は2016(平成28)年3月23日、「自動走行ビジネス検討会」の報告書を公表し、自動走行の実現に向けたロードマップを示しました。このうちトラックの隊列走行については、2020(平成32)年以降に夜間の長距離輸送などにおける後続車両無人の隊列走行の実現に向けた道筋を描き、今後、電子連結など要素技術の高度化や、社会の受容性の検証を行うとともに、「隊列運行管理サービス」のビジネスモデルの確立に取り組む方針です。
トラックの隊列走行は、後続車両が無人の3台以上の隊列走行とし、「隊列運行管理サービス事業者」が複数のトラックをマッチングして形成する姿を想定しています。既にACC(Adaptive Cruise Control)による追従走行が実用化されていますが、電子連結の安全性・信頼性の確保のため、車両間通信によるCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)と呼ばれる技術を活用した技術開発や実証試験などを進め、2020年度には後続車両無人2台による試験運行を行う予定です。
物流効率化法が改正~支援対象を拡充
改正総合物流効率化法が2016(平成28)年5月2日、参議院本会議で成立し、同月13日に公布されました。物流分野の労働力不足に対応するため、施設整備を支援する従来の枠組みから、事業者が連携した物流効率化への取り組みを支援する枠組みへと転換するもので、2016年秋に施行される見通しです。
認定対象の事業としては、①モーダルシフト推進事業、②地域内配送共同化事業、③輸送網集約事業(輸送機能と保管機能の連携)などです。
モーダルシフトでは、鉄道・船舶を活用することで、より少ない人員での大量輸送の推進に取り組み、2020(平成32)年度までに34億トンキロ分をトラック輸送から転換することを目指す方針です。
地域内配送の共同化に関しては、貨物混載・帰り荷確保などの共同輸送を加速化し、トラックの積載率を向上させることを目指します。また輸送網の集約については、総合物流保管施設にトラック営業所を併設したり、予約システムを導入するなどの輸送円滑化措置を講じることにより、待機時間のないトラック輸送の実現を目指す方針です。
国土交通大臣が、複数の事業者などが連携して作成した総合効率化計画を認定し、関連施設や設備に対する税制上の特例、計画の作成経費などに対する補助、行政手続きの一括化など関係法律の特例措置を講じて支援します。
国交省、生産性革命本部を設置
国土交通省は2016(平成28)年3月7日、石井啓一国土交通大臣を本部長とする「国土交通省生産性革命本部」を設置し、初会合を開きました。人口減少時代を迎える中で、トラックの積載率が41%と低い状況や、道路移動時間の約4割が渋滞損失である状況を改善し、労働者の減少を上回る生産性の向上を図ることで、経済成長の実現を目指す取り組みです。
初会合で石井大臣は、「本年を『生産性革命元年』と位置付け、生産性革命につながるプロジェクトを国土交通行政分野から選び出し、磨き上げて集中的に取り組みたい」と意欲を示しました。生産性革命プロジェクト第1弾では、「ピンポイント渋滞対策」「渋滞をなくす賢い料金」などが選定されました。
物流分野の生産性、2割程度向上へ
国土交通省は2016年4月11日、第2回生産性革命本部会合を開催し、第2弾のプロジェクトを選定しました。このうちトラック輸送関係では、「オールジャパンで取り組む『物流生産性革命』の推進」「トラック輸送の生産性向上に資する道路施策」が盛り込まれました。
物流生産性革命では、労働生産性(就業者1
人・1時間当たりの付加価値額)を将来的に全産業並みに引き上げることを目指すとし、当面2020(平成32)年までに2割程度引き上げることを数値目標として掲げました。その実現に向けて、「成長加速物流」と「暮らし向上物流」の2つの方向からアプローチする方針です。
「成長加速物流」では、荷主と協調したトラック業務改革により、手待ち時間削減や書面化、中継輸送を含む共同輸配送を促進し、積載効率を2割向上させるほか、2020年以降のできるだけ早期にトラックの自動隊列走行の実現を目指します。また物流を考慮した建築物の設計・運用を促進する方針です。「暮らし向上物流」では、宅配ロッカーの設置など受け取りやすい宅配便、手ぶら観光サービスなど身軽な旅行を実現する物流、共同集配や貨客混載による過疎地でも便利な物流、ドローンによる荷物配送を挙げています。
ダブル連結トラックで省人化
物流分野の生産性革命プロジェクトのうち、トラック輸送の生産性向上に資する道路施策では、高速道路のインターチェンジと港湾、空港、物流拠点などとの接続を強化する「物流モーダルコネクトの強化」を図るほか、深刻な運転者不足に対応するため、大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラックによる省人化」を進める方針を打ち出しました。
ダブル連結トラックについては、特殊車両通行許可基準の車両長を現行の21メートルから25メートルに緩和し、トラック輸送の主要幹線である新東名高速道路で走行実験を行う予定です。2016年夏頃から参加者を公募して実験を開始し、2017(平成29)年度末までの1年半をかけて実施する予定です。
実験参加のインセンティブとして、特大車の高速料金を車両長に応じて大型車並みに引き下げることを検討する方針です。また、運転者の労働環境改善を図る観点から、高速道路のサービスエリア・パーキングエリアで、上下線の運転者が乗り換える中継輸送の実験も併せて行う予定です。
改善基準違反、監査の前に改善指導
国土交通省は、運転者の労働時間に関する「改善基準告示」に違反しているトラック事業者に対する指導方針を見直し、2015(平成27)年9月1日から実施しました。
地方労働局から運輸支局に対して、改善基準違反に関する「労基通報」があった場合、これまでは運輸支局などがおおむね半年後に事業者に対する監査を行い、違反を確認すれば、行政処分を行っていました。しかし、過労運転などについては早期に違反状態を改善する必要があるため、監査の前にまず適正化事業実施機関が改善指導を行うことにしたものです。
運輸支局は、労基通報から10日以内に事業者に対して「指導通知」を行うとともに、適正化実施機関に「指導要請」を行い、要請を受けた適正化実施機関は要請から1~2か月の間に巡回指導を行い、事業者に対しては巡回指導から3か月以内に改善報告を求めることにしました。適正化実施機関の指導により改善されれば監査は行わず、改善が不十分であれば運輸支局が監査に入ることになります。
フェリー乗船中は休息期間に
厚生労働・国土交通両省は2015年9月1日から、トラックがフェリーを利用する場合の運転者の乗務時間に関する通達を改正・施行し、これまで拘束時間とされていたフェリー乗船中の2時間分を休息期間とすることにしました。
フェリーを利用する場合、乗船時間のうち2時間を拘束時間として取り扱ってきましたが、乗船後に運転者が作業を行うケースが少なくなっている実態などを踏まえ、原則、休息期間として取り扱うことにしたものです。